CHAPTER 10

時系列で読む — 5 期の変化から会社の癖をつかむ

5 期トレンド・業界 KPI・マクロ感応 ── 単年度では見えない性格を読む

読了目安 30 分 関連クイズトピック 7 個

同じ会社でも、単年度の決算だけ見ると印象が大きくぶれます。売上が伸びた 1 年だけを切り出せば成長企業に見えるし、利益が縮んだ 1 年だけを切り出せば構造不振に見える。5 期分を並べて初めて、シクリカルな「波」なのか、構造的な「下り坂」なのかが判別できます。本章では半導体装置・地方銀行という業種・マクロ感応度の違う会社を素材に、5 期トレンド・業界 KPI・マクロ指標との連動・トレンドが崩れたサインの 4 つを実際のデータで読みます。

5 期並べると単年度の印象が変わる

東京エレクトロン (8035) 5 期 売上高・営業利益率(FY2022〜FY2026) FY2024 で売上 -17%、営業利益 -26% の谷 ── 翌期に V 字回復、利益率は 25-30% 帯を維持 3.02.251.50.750売上高(兆円)40%30%20%10%0%営業利益率2.00FY20222.21FY20231.83FY2024(谷 -17%)2.43FY2025(+33% V 字)2.44FY202629.9%28.0%24.9%28.7%25.6%売上高(左軸・棒)営業利益率(右軸・折れ線) 単年度の数字だけ見ると見落とす ── 5 期で並べると景気敏感業種の「波」がはっきり見える
東京エレクトロン (8035) FY2022〜FY2026 ── 売上は 2.00→2.21→1.83→2.43→2.44 兆円、営業利益率は 25-30% 帯で推移

Part 1 の CH6 分析の章 で、決算書は 前期との比較・5 期分のトレンド・同業他社との比較 の 3 軸を揃えて読むと整理しました。 Part 2 では、その「5 期分のトレンド」を投資判断にどう使うかに踏み込みます。 最初に押さえてほしいのは、単年度の決算だけ見ると、その会社の「性格」を読み違えるという事実です。 上の図は、半導体製造装置メーカー東京エレクトロン(以下 TEL)の FY2022〜FY2026(3 月期)の売上高と営業利益率を 5 期並べたものです。 数字は stockanalysis.com 経由 S&P Global、2026 年 5 月時点の取得です。

この 5 期を時系列で読むと、会社の「」がはっきり見えます。

  • FY2022 → FY2023:売上 2.00 → 2.21 兆円(+10%)。半導体投資サイクルのピーク期。営業利益率は 29.91% → 27.96% と高水準を維持。
  • FY2024(谷):売上 1.83 兆円(-17%)、営業利益率 24.93%。半導体メモリ市況の調整局面。単年度だけ見れば「業績悪化」と判定したくなる数字です。
  • FY2025(V 字回復):売上 2.43 兆円(+33%)、営業利益率 28.68%。AI 半導体投資の立ち上がりを取り込んで急回復。
  • FY2026:売上 2.44 兆円(+0.5%)、営業利益率 25.57%。高水準で踊り場。

もし FY2024 単年度の決算だけを見せられたら、多くの人は「売上 -17% の業績悪化銘柄」と判定するでしょう。 ところが 5 期並べれば、これは シクリカル業種に内在する「波」の谷 であって、構造的な下り坂ではないと読めます。 営業利益率が 25〜30% の帯から外れていないこと、谷の翌期に売上が +33% 戻していることが、その判定根拠です。 逆に、もし FY2024 の谷で営業利益率まで一桁台まで深掘れしていたなら、それは「景気サイクルの谷」を超えた構造問題のサインだったかもしれません。

営業 CF も 5 期で並べると、利益との連動がよく見えます。 TEL の営業 CF は 2,834 億 → 4,263 億 → 4,347 億 → 5,822 億 → 5,397 億円。 利益が縮んだ FY2024 でも営業 CF は前期比 +2% でプラス成長を維持しています。 「利益の谷でも CF は減らない」というのは、運転資本の管理が効いている健全な事業モデルの証拠です。 Part 1 の CH5 C/S の章 で「営業 CF と純利益の関係」を見ましたが、それを 5 期で並べることで初めて、循環の谷でも CF を生む力があるかが判定できます。

5 期トレンドを読む手順は 3 段階でシンプルです。 第 1 に、売上・営業利益・営業 CF の 3 つを同じグラフに並べること。 第 2 に、谷年と山年の振幅を測ること(TEL なら売上で -17% / +33%、利益率で 24.93% / 29.91%)。 第 3 に、谷年の数字が「業種の中で許容範囲か」「構造問題のサインか」を業界水準と比べて判定すること。 この 3 段階で読めば、単年度のニュースに振り回されず、会社の性格を時間軸で捉え直すことができます。

売上成長と利益率を同時に見る

売上成長 × 営業利益率(5 期トレンドの 4 象限) 売上が伸びているからといって安心とは限らない ── 利益率の変化方向と組み合わせて読む 売上 +- 売上利益率 +- 利益率健全成長売上 ↑ × 利益率 ↑オペレーティング・レバレッジが効き、固定費を超えた売上が利益に直結最も保有を続けたい状態成長コスト警戒売上 ↑ × 利益率 ↓販管費の先行投資、原材料高、競争激化など「伸びても儲からない」構造的リスク利益率の下げ止まりを確認縮小局面売上 ↓ × 利益率 ↓需要減+固定費が重く、利益率が深掘れする構造問題か景気循環かを切り分ける仮説の前提が崩れた可能性回復の芽売上 ↓ × 利益率 ↑コスト削減・選別受注で先に利益率が戻る売上回復が後から来れば V 字へ移行受注・在庫・ガイダンスを併読 5 期トレンドは「売上の伸び」と「利益率の方向」の組み合わせで読む ── 単独の数字では象限を判定できない
売上成長 × 営業利益率の 4 象限 ── 売上が伸びていても利益率が下がる「成長コスト警戒」象限が最も見落とされやすい

売上の伸びだけを追っていると、よく見落とすことがあります。同じ「売上 +20%」でも、利益率が上がっているのか下がっているのかで、意味が真逆になります。 上の 4 象限マトリックスは、5 期トレンドを「売上の伸び」と「営業利益率の方向」の 2 軸で 4 つに分けたものです。 投資判断で押さえておきたい順に整理します。

① 健全成長(売上 ↑ × 利益率 ↑)。 売上が伸び、利益率も同時に上がっている状態。 Part 1 の CH4 P/L の章 で扱った オペレーティング・レバレッジが効いている典型です。 固定費を売上が超えると、追加売上の大半が利益に直結する構造で、5 期で見ると売上成長率を超えて利益成長率が伸びる形になります。 最も保有を続けたい状態で、四半期ごとに「この象限から外れていないか」を確認します。

② 成長コスト警戒(売上 ↑ × 利益率 ↓)。 売上は伸びているのに利益率が縮んでいく状態。 販管費の先行投資、原材料高、競争激化による値引き、いずれも単年度では「売上が伸びたから OK」と片づけがちですが、5 期で並べると利益率の右肩下がりが浮かび上がるのが特徴です。 とくに「成長企業だから先行投資で利益率は犠牲にする」という説明が 3 期続いたら要注意。 初期投資が一巡すれば利益率は戻るはずで、それが戻らないのは構造的に儲からないビジネスに変質した可能性があります。 投資判断では、「いつまでに利益率が反転する見込みか」を経営側がガイダンスで明示しているかを点検します。

③ 縮小局面(売上 ↓ × 利益率 ↓)。 売上が縮み、利益率も同時に下がる。 固定費が重く残るため、売上の縮小幅以上に利益が削られます。 ここで切り分けるべきは、景気循環の谷なのか、構造問題なのかです。 シクリカル業種なら数年で戻ることが期待できますが、構造問題(市場縮小・代替技術・規制変更)なら 5 期では戻らないどころかさらに下方シフトしていきます。 この判定は単独企業の数字だけでは難しく、同業他社の同時期 5 期トレンドと並べて見るのが王道です。

④ 回復の芽(売上 ↓ × 利益率 ↑)。 売上が縮んでいる一方で、利益率は逆に戻っている状態。 コスト削減や選別受注(採算の良い案件だけ取る)の効果で、売上より先に利益率が反転するパターンです。 ここに 受注残・在庫の減少・ガイダンスの上方修正が重なってくると、次の 1〜2 期で売上も追いついて V 字回復に入る兆候。 sec-1 で見た TEL の FY2024 → FY2025 の動きが、まさにこの ④ から ① への移行の典型です。

この 4 象限は 四半期ごとに会社が動いていく地図です。 ① にずっと留まる会社はほとんどなく、業界サイクルとともに ① → ② → ③ → ④ → ① を回ります。 投資判断で大事なのは、いま自分の保有銘柄がどの象限にいて、次にどの象限へ移りそうかを 5 期トレンドから読むこと。 象限の遷移と、コンセンサス予想との差・四半期決算の点検を組み合わせれば、保有継続・売却・追加買付の判断が一段明確になります。

業界 KPI で会社ごとの勝ち筋を比べる

半導体装置 3 社の「規模 × 営業利益率」── 直近期 ニッチ・トップほど利益率が高い ── 売上規模が小さくても、独占領域があれば 50% 近い営業利益率を出せる 60%45%30%15%0%営業利益率(%)00.51.01.52.02.53.0売上高(兆円)利益率 30% ラインレーザーテック48.9%売上 0.25 兆 / マスク検査EUV ニッチ独占アドバンテスト44.2%売上 1.13 兆 / 後工程テスタAI 半導体検査の主役東京エレクトロン25.6%売上 2.44 兆 / 前工程装置業界最大規模・幅広い 同じ「半導体装置」でもセグメントが違えば、規模と利益率の関係は逆方向に動く
半導体装置 3 社の規模 × 営業利益率 ── レーザーテックは売上 0.25 兆と小さいが営業利益率 48.9%、TEL(売上 2.44 兆 / 利益率 25.6%)と勝ち筋が違う

同業他社との比較は、単に「売上の大きさ」「利益の絶対額」を並べるだけでは意味が出ません。 規模 × 利益率の 2 軸で並べると、会社ごとの「勝ち筋」が初めて浮かび上がります。 上の図は、半導体装置産業の 3 社 ── 東京エレクトロン(前工程)、アドバンテスト(テスタ)、レーザーテック(マスクブランク欠陥検査)── を、売上規模(横軸)と営業利益率(縦軸)で配置したものです。 数値は各社の直近期(TEL FY2026 / アドバンテスト FY2026 / レーザーテック FY2025)、stockanalysis.com 経由 S&P Global、2026 年 5 月時点。

3 社の数字を並べると、こういう構図が見えます。

  • 東京エレクトロン:売上 2.44 兆円、営業利益率 25.57%。半導体製造の前工程(成膜・エッチング等)で世界トップクラス。幅広い装置ラインを持つことで規模を取り、利益率は業界平均水準
  • アドバンテスト:売上 1.13 兆円、営業利益率 44.22%。半導体テスタ(後工程)で世界 2 強の一角。AI 半導体(GPU・HBM)需要を取り込み、規模も利益率も高水準
  • レーザーテック:売上 0.25 兆円、営業利益率 48.85%。EUV マスクブランク欠陥検査でほぼ世界独占。規模は TEL の約 1/10 だが、利益率は最高水準

同じ「半導体装置」でも、勝ち筋はまったく違います。 TEL は 幅広い装置領域 × 大規模顧客で稼ぐ、いわば「総合商店型」。 アドバンテストは テスタという特定領域 × AI 需要の波に乗る「専門店型」。 レーザーテックは EUV マスク検査というニッチ × 独占的シェアで稼ぐ「ニッチ・トップ型」です。 投資家の視点では、3 社を「半導体装置セクター」として一括りにせず、勝ち筋ごとに評価軸を変える必要があります。

勝ち筋によって、5 期トレンドで重視すべき指標も違います。

  • 総合商店型(TEL):売上の規模と 顧客地域別構成を見る。中国向け比率の変化、北米向け比率の変化が業績ドライバー。営業利益率は 25〜30% 帯から外れていないかを確認。
  • 専門店型(アドバンテスト):売上の伸びと 特定アプリケーション(AI 半導体)依存度を見る。AI 投資が一巡したときに利益率が維持できるか、別領域への展開があるかが論点。
  • ニッチ・トップ型(レーザーテック)シェアの高さと、参入障壁の維持を見る。利益率 48% という水準は、競合が現れない限り維持できる構造。逆にシェアが崩れた瞬間に利益率は急落する。

業界 KPI を「会社共通の物差し」として扱うなら、半導体なら受注残(バックログ)・装置販売台数・WFE(半導体設備投資)市場予想、銀行なら NIM(純利ざや)・不良債権比率、SaaS なら ARR・解約率、というように 業種ごとに見るべき指標が決まっています。 Part 1 で学んだ汎用の財務指標(売上・利益・CF・ROE)を 業界 KPI と組み合わせると、同業他社との比較は一段精度が上がります。 銘柄選びの段階で 「自分はこの会社の勝ち筋に賭けている」と一文で言える状態を作るのが、5 期トレンド比較のゴールです。

金利・為替・市況が数字に出る業種を読む

千葉銀行 (8331) 国内 貸出金利回り 5 期推移(FY2022〜FY2026 上期) 日銀政策金利の引き上げ局面で +29bp 上昇 ── 銀行業績はマクロ金利に直結する 1.4%1.05%0.7%0.35%0%利回り(%)0.89%FY20220.87%FY20230.87%FY20240.96%FY20251.18%FY2026 上期0.17%+27bp貸出金利回り預金利回り マクロ金利は当てるものではなく、保有銘柄が「金利のどっち向きで利益が出るか」を確認するもの
千葉銀行 (8331) 国内 貸出金利回り 5 期推移 ── FY2022 0.89% から FY2026 上期 1.18% へ +29bp 上昇、政策金利と連動

会社によっては、業績がマクロ指標に 直接的に連動します。 銀行業の 金利、輸出企業の 為替、商社・素材の 資源市況。 これらの業種では、5 期トレンドを読むときに マクロ指標の推移を横に並べると、業績変動の理由が一気に説明できます。 逆に、マクロ指標の動きを読み損なうと、業績の変化がなぜ起きているか判定できません。

上の図は、千葉銀行の国内業務部門 貸出金利回りの 5 期推移です。 数値は同行 FY2026 中間決算プレゼン(2025 年 11 月開示)から取得。 FY2022 末(3 月期)の 0.89% から FY2026 上期(2025 年 9 月中間期)の 1.18% へ、+29 ベーシスポイント(bp)の上昇が見えます。 とくに FY2025 → FY2026 上期で +27bp の急上昇。 これは日銀の政策金利引き上げ(2024 年 3 月のマイナス金利解除以降の段階的引き上げ)が、地方銀行の貸出金利回りに直接反映されているということです。

銀行株を見るときの基本指標は NIM(Net Interest Margin、純利ざや)です。 ざっくり「貸出金利回り − 預金利回り」で、銀行が資金を調達するコストと、貸し出して得る利息収入の差。 千葉銀行のケースでは、貸出金利回りが +29bp 上昇する一方で、預金利回りも 0.01% → 0.17% へ上昇していますが、貸出側の上昇幅の方が大きいため、預貸金利差は拡大しています。 これが 「金利上昇 → 銀行業績の改善」のメカニズムです。

ここで投資判断側の使い方を整理します。マクロ指標は 「当てに行く」のではなく「保有銘柄が金利・為替のどっち向きで儲かるか」を確認するために使う、というのが基本姿勢です。 たとえば次のような対応関係を意識します。

  • 金利上昇 → 銀行はプラス(貸出金利回り上昇)。逆に 高 PER のグロース株・不動産・電力は逆風(割引率上昇 / 資金調達コスト増)。
  • 円安 → 輸出企業はプラス(海外売上の円換算額が増える)。逆に 輸入比率の高い小売・食品は逆風(仕入コスト増)。海外売上比率は有報のセグメント情報で確認できます。
  • 原油・銅・鉄鉱石の市況 → 商社・資源株はプラス。逆に 航空・運輸・素材は逆風(燃料費・原材料費増)。

自分の保有銘柄について、マクロ指標が「どっち向きで儲かるか」を一文で書けるかを確認してください。 千葉銀行を持っているなら「金利が上がれば貸出金利回りが上がって NIM が拡大する」、トヨタを持っているなら「円安が進めば海外売上の円換算が増える」、というふうに。 この一文がぼやけている銘柄は、マクロ環境の前提が変わったときに保有理由を見失いやすい。 逆に明確になっていれば、政策金利・為替・原油の見出しを見たときに 「自分の保有銘柄の利益率がどう動くか」がすぐ予測できます。

なお、マクロ指標の方向は 事前に正確には予測できません。 日銀の追加利上げのタイミング、為替の急変、地政学リスクで動く原油価格 ── 当てに行こうとすると外れます。 投資判断では「マクロは前提条件として読む」までに留め、具体的な売買判断は個別企業の四半期決算の数字で確認する。 マクロは見出しを追うのではなく、5 期トレンドの背景を理解するための補助線として使うのが正しい使い方です。

トレンドが崩れたサインを見つける

トレンドが崩れたサイン ── 5 期で確認する 4 パターン 単年度の好決算でも、4 つのうちどれかが点灯しはじめたら立ち止まって仮説を再点検する 1売上成長の鈍化(YoY 失速)+30% から +5% へ ── 成長の角度が落ちる時、市場期待との乖離が始まる2営業 CF の急減(利益との乖離)純利益は伸びているのに営業 CF が急減 ──売掛金・在庫を経由した「数字作り」を疑う3在庫の積み上がり(売上 < 在庫)売上が横ばいなのに在庫だけ膨らむ ──需要鈍化の先行指標。次期の値引き圧力に直結4ガイダンスの下方修正期初ガイダンス↓ 下方修正経営者自身が「見通しを下げます」と宣言 ──過去実績がよくても、未来の売られ方を決める
トレンドが崩れた 4 つのサイン ── 売上成長の鈍化・営業 CF の急減・在庫の積み上がり・ガイダンス下方修正

ここまで「5 期トレンドで会社の性格を読む」「象限の遷移を読む」「業界 KPI で勝ち筋を比べる」「マクロ感応度を読む」と進めてきました。 最後に、これらの 5 期トレンドが 崩れ始めるサインをどう見つけるかをまとめます。 投資判断における 5 期トレンド分析の最終目的は、「買った時の前提が崩れていないかを定期的に確認する」ことです。 過去の数字を眺めるためではありません。

上の図に整理した 4 つのサインを 1 つずつ見ていきます。

① 売上成長の鈍化(YoY 失速)。 5 期 YoY が「+30% → +25% → +20% → +10% → +5%」のように右肩下がりに縮んでいくパターン。 個別の四半期では「市場期待を上回った」と報じられても、成長角度自体が落ちていることを 5 期で並べると見抜けます。 グロース銘柄でこのパターンが出ると、PER の高さを正当化していた成長プレミアムが剥がれて株価が大きく調整しやすい。 sec-2 の「成長コスト警戒」象限と組み合わせて見ると、「売上の伸びが落ちて、利益率も落ちる」という二重の悪化シナリオが浮かび上がります。

② 営業 CF の急減(純利益との乖離拡大)。 sec-1 で見たように、健全な事業モデルでは 純利益と営業 CF はおおむね連動します。 ところが、純利益は伸び続けるのに営業 CF が急減し始めたら、その差は 運転資本(売掛金・在庫・買掛金)に吸収されている可能性が高い。 売掛金が膨らんで現金化が遅れている、在庫が積み上がっている、収益認識のタイミングを早めて利益を作っている、いずれも 「数字を作っている」兆候です。 Part 1 の CH5 C/S の章 で営業 CF の 3 区分を見ましたが、5 期トレンドでこの乖離を見つけるためにこそ、CH5 の知識が活きます。

③ 在庫の積み上がり(売上 < 在庫の伸び)。 売上は横ばいや微減なのに、在庫だけが右肩上がりに増えていくパターン。 これは 需要鈍化の先行指標として、業界に関係なく機能します。 製造業なら完成品在庫の積み上がり、小売なら店頭・倉庫在庫の増加。 在庫が捌けないということは、次期に値引き販売・在庫評価損・生産調整のいずれかが必要になるということ。 決算短信の「棚卸資産」の前期末比増減を 5 期で並べると、ここがじわじわと膨らんでいる会社が浮かび上がります。

④ ガイダンスの下方修正。 これは 5 期トレンドというより四半期決算の話に見えますが、5 期で並べた業績モメンタムと組み合わせると意味が変わります。 過去 5 期にわたって順調に上方修正を出し続けてきた会社が、初めて下方修正に転じたら ── その瞬間が トレンドの折れ目になりやすい。 経営者自身が「ここから見通しを下げます」と宣言したわけで、過去の好実績がどれだけあっても、株価は 未来の弱気見通しに反応します。 コンセンサス予想に対して実績が下振れ、同時にガイダンスも下方修正された場合は、市場の期待と経営者の見通しが同時に下方シフトする局面が見抜けます。

この 4 つのサインは 同時には出ません。たいていは 1 つから始まり、放置すると 2 つ目・3 つ目が連鎖していきます。 たとえば在庫が積み上がる → 値引き販売で利益率が下がる → 売上成長が鈍化する → ガイダンス下方修正、という連鎖。 最初の 1 つが点灯した時点で「保有継続の前提が崩れていないか」を点検するのが、5 期トレンド分析の実装編です。

最後にもう一度確認します。 5 期トレンドは 過去を眺める道具ではなく、未来の判断を更新する道具です。 買った時の仮説(① 健全成長象限にいる、② 業界 KPI で勝ち筋がある、③ マクロが追い風、④ トレンド崩壊のサインがない)を 四半期ごとに 5 期トレンドで点検し直すことで、保有継続・売却・追加買付の判断が一段明確になります。 次章 CH11 では、この銘柄ごとの判断をポートフォリオ全体の設計に落とし込んでいきます。

この章のポイント

  1. 1単年度の決算だけでは会社の性格は見えない ── 5 期で並べて「波か下り坂か」を切り分ける
  2. 2売上成長と利益率は同時に見る ── 売上だけ伸びて利益率が下がる「成長コスト警戒」象限が最も見落とされやすい
  3. 3同業他社との比較は規模 × 利益率の 2 軸で行う ── ニッチ・トップは規模が小さくても利益率で抜け出る
  4. 4マクロ指標は「当てに行く」のではなく「保有銘柄が金利・為替のどっち向きで儲かるか」を確認するために使う
  5. 5トレンドが崩れたサインは 4 つ ── 売上成長の鈍化・営業 CF の急減・在庫の積み上がり・ガイダンス下方修正
  6. 65 期トレンドは「買った仮説の前提が崩れていないか」を点検する道具 ── 過去ではなく未来の判断を更新する