CHAPTER 2

見る前の準備

連結・上場非上場・会計基準 ── 読み始める前提

読了目安 20 分 関連クイズトピック 3 個

同じ「決算書」と呼ばれるものでも、対象の範囲(単体か連結か)・適用される会計ルール(日本基準・米国基準・IFRS)・開示の厚みは会社によって違います。誤った前提で数字を比べると結論を見誤る。この章では、決算書を本格的に読み始める前に押さえておきたい 3 つの前提を整理します。

連結で見る ── グループ全体の姿

親会社単独ではなくグループ全体で見る議決権の比率と「支配・重要な影響力」で連結・持分法の対象が決まる連結範囲(連結決算書に取り込む)親会社グループの頂点子会社 A議決権 80%支配ありB/S・P/L を全額合算子会社 B議決権 60%支配ありB/S・P/L を全額合算子会社 C40% + 実質支配役員派遣・資金援助等実態支配で連結対象親会社以外の株主が持つ部分は「非支配株主持分」として純資産の内訳に表示関連会社議決権 20%以上 50%以下= 重要な影響力関連会社 X議決権 30%持分法を適用投資勘定だけを増減(合算しない)単なる投資先議決権 20%未満= 影響力なしB/S 上は「投資有価証券」として残るのみ個別決算(親会社単独)と連結決算(グループ全体)の違い個別決算書(親会社のみ)・親会社の B/S・P/L だけを表示・資産の大半は「子会社株式」で占められる・収益は子会社からの配当・経営指導料が中心グループの事業活動の実態は見えにくい連結決算書(グループ全体)・親会社+全子会社の B/S・P/L を合算・関連会社は持分法で投資勘定だけ修正・グループ内取引は相殺消去されるグループ全体の事業活動の実態が把握できる
親会社・子会社・関連会社の関係 ── 議決権の比率と「支配・重要な影響力」で連結・持分法の対象が決まる

決算書を本格的に読み始める前に、まず押さえておきたい前提が 3 つあります。 連結・上場非上場・会計基準です。 これらの前提が違うまま数字を比べてしまうと、ほとんどの場合、結論を見誤ります。 たとえば「単体決算と連結決算をならべて売上が 10 倍違う」と驚いても、それは会社が急成長したのではなく、 見ている範囲が違うだけ、ということが普通に起こるからです。

まずは「連結」から見ていきます。 ある程度の規模を超えると、会社は単独で経営することはほとんどありません。 事業ごと・地域ごとに別の会社を立て、複数の会社からなる企業グループとして活動するのが普通です。 グループの頂点に立つのが親会社、親会社に支配されているのが子会社。 この企業グループ全体を 1 枚の決算書にまとめたものが、連結決算書です。

上場企業の決算書を読むときの大原則を、ここで先に確認しておきます。 上場企業を分析するときに見るのは、親会社単独の個別決算書ではなく、連結決算書のほうです。 なぜそうなるかは、純粋持株会社の例を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。 事業をまったく行わず、グループ管理だけに専念する親会社(純粋持株会社)の個別 B/S を開くと、 資産の大半は子会社株式。個別 P/L にも、本業の売上はほとんど計上されず、 子会社からの受取配当金経営指導料がならぶだけです。 つまり親会社単独の決算書を見ても、グループの本業がどれだけ稼いでいるかは見えてこないのです。

純粋持株会社でなくとも、似たことは起きます。 たとえば総合電機メーカーや総合商社のように、複数の事業を別法人として展開している会社では、 親会社は本社機能と特定の主力事業だけを持ち、他の事業は子会社が運営している、というケースが珍しくありません。 この場合、親会社単独の数字を見ても、それはあくまでグループの一部です。 逆に、連結ベースで見ればグループ全体の規模・収益力・財政状態が 1 枚にまとまる。 個別決算書を「親会社というワンピース」、連結決算書を「ジグソーパズルの完成図」と置き換えてもよいでしょう。

連結とセグメント ── 全体と中身を行き来する

連結決算書のもう 1 つの注意点は、事業の中身が混ざること。 たとえば総合商社の連結 P/L を開くと、エネルギー・金属・食料・自動車・金融など、 まったく性質の違う事業の売上と利益がひとまとめになって載っています。 合算なので当然のことなのですが、これだけだと「どの事業がどれくらい稼いでいるか」がわかりません。 ここで補完役を果たすのがセグメント情報です。 事業別・地域別の売上高・利益・資産・設備投資額が一覧で開示されており、 連結ベースで全体を眺めながら、セグメント情報で内訳を確認する、という読み方が王道です。

子会社と関連会社 ── 「支配」と「重要な影響力」で線を引く

では、どの会社まで連結に取り込むのでしょうか。 ここで使われる軸が 「支配」 です。 議決権の過半数(50%超)を保有しているのが基本ですが、 過半数に満たなくても、役員派遣や多額の資金援助などで実質的に意思決定を支配していれば子会社とみなされます (これを「実質支配基準」と呼びます)。 議決権の数字だけで判断すると、子会社の赤字を連結外に隠す抜け穴になりかねないので、実態で判定する仕組みです。

一方、議決権の20%以上 50%以下を持ち、 役員の派遣や重要な営業方針への関与などで重要な影響力を行使できる会社は、関連会社と呼びます。 関連会社は支配には至らないものの、無視できないほどの影響を与えられる位置にいる ── そんなイメージです。

子会社と関連会社では、決算書への取り込み方も違います。 子会社はB/S・P/L をまるごと合算するのが原則(グループ内の売買や貸し借りは相殺消去)。 関連会社は合算せず、持分法という方法を使います。 持分法は「投資勘定だけを増減させる」シンプルな方法で、 関連会社が利益を出した分の持分相当額を「持分法による投資利益」として P/L に計上し、 同額を関連会社株式(B/S の投資勘定)に加える ── という処理だけで取り込みます。 議決権 20% 未満なら、影響力なしとみなされ、連結も持分法も適用されません。 この場合は B/S 上、単なる「投資有価証券」として残るだけです。

連結 B/S・連結 P/L・連結 C/S と、非支配株主持分

連結決算書は、ふだん私たちが読む B/S・P/L・C/S と基本構造は同じです。 ただし「グループ合算」という性質ゆえに、個別決算書には出てこない項目が登場します。 代表は非支配株主持分。たとえば子会社の議決権を 70% 持ち、 残り 30% を他の株主が持っている場合、子会社の B/S は全額合算しますが、 合算した結果のうち親会社以外の株主の取り分(持分相当)を、 純資産の部の内訳として「非支配株主持分」と表示します。 グループのなかにいる「他人の取り分」を、こうして見える化しているわけです。

もう 1 つ、連結 P/L で見落とせないのが持分法による投資損益。 関連会社の利益/損失のうち持分相当額がここに乗ります。 連結したからこそ見えるのが企業グループの全体像。 ただし合算すると今度は事業の中身が混ざってしまうので、 多くの上場企業はセグメント情報で事業別・地域別の内訳を補足しています。 「連結でグループ全体を俯瞰しつつ、セグメント情報で内訳を見る」── これが大企業の決算を読む基本姿勢です。

上場と非上場 ── 開示と監査の厚みの差

上場企業と非上場企業 ── 適用ルール・監査・開示が大きく違う不特定多数の投資家が関わる上場企業ほど、厳格な会計・監査・開示が義務付けられる比較軸上場企業(約 3,500 社)非上場企業(100 万社超)適用法何がかかるか開示何を出すか監査誰が見るか会計基準選択幅株式流通会社法金融商品取引法会社法金商法は不適用・有価証券報告書(年 1 回)・半期報告書 / 適時開示・会社法計算書類(株主向け)・会社法計算書類のみ・有報・四半期開示なし外部から入手しにくいケースが多い・金商法監査(必須)・会社法監査(大会社として必須)公認会計士・監査法人が厳格チェック・大会社のみ会社法監査が必須資本金 5 億円以上 又は 負債 200 億円以上・大半の中小企業は監査なしJ-GAAP / IFRS / US-GAAP / JMISグローバル投資家向けに IFRS 選択も増加J-GAAP / 中小指針 / 中小要領 / 税法基準実務上は税法基準による決算が多い証券取引所で自由に売買可譲渡制限あり・限定的なぜルールが違うのか ── 投資家保護の度合いが違うから上場企業は不特定多数の一般投資家にさらされる ⇒ 厳格な会計基準・監査・開示で投資判断を守る非上場企業は利害関係者が限定的(銀行・取引先など) ⇒ ルールは緩いが、決算書を鵜呑みにせず注意
上場企業と非上場企業 ── 適用される法律・監査・開示が大きく違う

2 つめの前提は「上場と非上場」です。 日本の株式会社は100 万社を超えますが、 そのうち証券取引所で株式が自由に売買されている上場企業は約 3,900 社にすぎません。 圧倒的多数は非上場企業です。 この区分が、決算書の世界では非常に大きな意味を持ちます。 なぜなら、適用される法律・会計基準・監査・開示義務がまったく違うからです。

適用される法律 ── 会社法と金融商品取引法

まず、決算書まわりで効いてくる法律は大きく 2 つあります。

  • 会社法: 株式会社などすべての会社に共通で適用される基本法。 計算書類(B/S・P/L 等)の作成義務、株主総会、取締役の責任など、会社運営の枠組み全般を規律する。 上場・非上場を問わない。
  • 金融商品取引法(金商法): 投資家保護を目的とした法律で、 有価証券を公衆に発行・流通させる会社、典型的には上場企業が対象。 有価証券報告書などの開示義務や、公認会計士・監査法人による外部監査義務はここから出てくる。

整理すると、上場企業には会社法 + 金商法の二重の規制がかかり、 非上場企業には会社法だけが適用される、という構図です。 この一枚目の差が、開示・監査の厚みの違いにそのまま響いていきます。

監査の有無と厚み

監査は、独立した第三者である公認会計士・監査法人が、 決算書が会計基準に従って適正に作成されているかをチェックし、意見を表明する行為です。 経営者の自己チェックや、社内の内部監査は「監査」とは呼びません。 ここでも上場・非上場で取扱いが分かれます。

上場企業はほぼ例外なく、 金商法に基づく監査と、会社法上の「大会社」要件(資本金 5 億円以上または負債総額 200 億円以上)を満たすことによる会社法監査の両方を受けます。 実務上は同じ監査法人が一体で実施しますが、根拠法は 2 つ存在する。 つまり上場企業の決算書は、二段構えの監査でフィルターにかけられた数字、というわけです。

一方の非上場企業は、原則として会社法だけが効きます。 会社法上、監査義務があるのは「大会社」に該当する非上場企業だけ。 資本金 1,000 万円・負債総額 5,000 万円といった一般的な中小企業は、大会社に該当しないので監査義務はありません。 日本の非上場企業の大半はこのカテゴリにあり、外部監査を受けないまま決算書を作っています。 実務上は税法基準による決算が中心となり、税務署に提出する申告書を兼ねて作っているケースが多い。 これは「不良資産が放置されやすい」「意図的でないものも含めた粉飾が混入しやすい」というリスクと裏腹で、 非上場企業の決算書は鵜呑みにせず注意して読む必要があります。

開示義務 ── 有報・四半期決算短信・計算書類

開示の厚みも、上場・非上場で大きく違います。 上場企業は金商法に基づいて有価証券報告書(有報)を年 1 回提出し、 EDINET というシステムで誰でも閲覧できます。 この有報には決算書だけでなく、事業の状況・経営者の議論と分析(MD&A)・リスク情報・コーポレートガバナンスなど、 会社の姿を立体的に理解するための情報が一式そろっています。 外部から会社を分析できるのは、この厚い開示の存在が前提です。 有報は分量こそ多いものの、目次を頼りに必要なところだけを拾い読みすればよく、慣れれば 1 時間程度で 1 社の輪郭はつかめます。

四半期の開示はやや変則的で、2024 年 4 月以降、金商法上の四半期報告書は廃止され半期報告書に統合されました。 ただし証券取引所のルールに基づく四半期決算短信は継続して開示されており、 投資家は四半期ベースで業績の動きを追えるようになっています。

これに対して非上場企業の開示は、会社法上の計算書類(B/S・P/L など)が中心です。 有報も四半期短信もなく、入手できるのは限られた情報だけ。 取引先・取引銀行であれば直接受け取れますが、外部の第三者がそれを取り寄せて分析するのは 上場企業ほど簡単ではありません。

「非上場 = ルールがゆるい」ではない

ここで 1 つ、よくある誤解を片づけておきましょう。 「非上場企業はゆるいから、経営者が自由に決算書を作っていい」という誤解です。 これは正しくありません。 非上場企業にも会社法に基づく計算書類の作成義務があり、 会計ルールとしては J-GAAP のほか、 中小企業会計指針中小企業会計要領(いわゆる「中小指針」「中小要領」)が整備されています。 上場企業より緩いだけで、ルールがないわけではありません。 この差を理解したうえで、非上場企業の決算書は「監査がない前提」で慎重に読むのが、健全な距離感です。

日本基準・米国基準・IFRS

IFRS は 100 か国以上で使われる国際会計基準原則主義で、日本基準・米国基準と並立する日本企業が選択できる 4 つの会計基準正式名何の基準か採用国適用層基準の性格作り方J-GAAP日本基準Japanese GAAP日本国内が中心多くの日本企業が採用規則主義詳細ルール・例外要件IFRS国際会計基準InternationalFinancial ReportingStandards世界 100 か国以上EU 上場企業に適用原則主義判断を実務に委ねるUS-GAAP米国基準US GenerallyAccepted AccountingPrinciples米国・SEC 登録企業自国基準を維持規則主義具体的な処理を規定JMIS修正国際基準Japan's ModifiedInternationalStandards日本国内(任意)採用企業は少数IFRS を修正のれん償却など原則主義と規則主義 ── 基準の作り方の違い原則主義(principles-based)基本的な考え方だけを定め、個別の処理は企業自らが状況に応じて判断する採用:IFRS企業に説明責任 ── 抽象的だが本質を問う規則主義(rules-based)詳細なルールや例外的取扱いの要件まで基準で具体的に明示する採用:日本基準・米国基準判断のばらつきは小さいが、ケース網羅が課題IFRS と J-GAAP の代表的な差異のれんの処理IFRS非償却・減損のみJ-GAAP20 年以内で規則的償却IFRS では毎期 P/L に償却費が乗らない代わりに減損テストを毎期実施し、必要時に一括で減損損失を計上する開発費の取扱いIFRS一定要件で資産計上J-GAAP原則として費用処理IFRS は将来の経済的便益が高い確度で見込まれる開発支出を無形資産としてB/S に計上する時価評価の範囲IFRS広い ── 時価主義志向J-GAAP取得原価主義が基本IFRS は資産・負債を可能な限り時価で評価しB/S を重視する。時価変動が P/L や包括利益に反映されやすい
日本企業が選択できる 4 つの会計基準 ── 日本基準・IFRS・米国基準・修正国際基準

3 つめの前提が会計基準です。 日本の上場企業が連結財務諸表を作成するときに選択できる基準は、現在 4 つあります。

  1. 日本基準(J-GAAP): Japanese Generally Accepted Accounting Principles の略。 日本国内で多くの企業が採用する基準で、近年は IFRS の内容に近づける改正が継続的に行われている。
  2. IFRS(国際会計基準): International Financial Reporting Standards の略。 EU が 2005 年に上場企業へ適用したのを契機に世界へ広がり、いまでは100 か国以上で使われる国際基準。 日本では上場企業に任意適用が認められており、約 200 社が採用している。
  3. 米国基準(US-GAAP): 米国の会計基準で、SEC 登録の一部日本企業が採用している。 米国は自国の経済規模を背景に US-GAAP を維持しており、IFRS を全面強制適用してはいない。
  4. 修正国際基準(JMIS): IFRS をベースに、のれんの償却など一部論点について日本独自の修正を加えた基準。 任意で選択できるが、採用企業は限定的。

ここで強調したいのは、日本でも IFRS は「義務」ではないという点です。 「上場企業はすべて IFRS で決算を組んでいる」と思われがちですが、現状もっとも多いのは J-GAAP。 IFRS を選ぶかどうかは、各企業の経営判断です。 海外の機関投資家比率が高い企業ほど、世界中の投資家が読み慣れた IFRS への任意適用に踏み切るインセンティブが強くなる、 という傾向はあります。

原則主義と規則主義

4 つの基準は、書きぶりにも大きな違いがあります。 IFRS の特徴は原則主義(principles-based)。 基本的な考え方だけを基準で定め、具体的な処理は企業が自社の状況に応じて判断する書きぶりです。 その分、企業には「なぜその処理を選んだか」を自分の言葉で説明する責任が伴います。

対して日本基準・米国基準は規則主義(rules-based)の系譜で、 詳細なルールや例外的な取扱いの要件まで基準で具体的に明示します。 判断のばらつきが小さくなるメリットはありますが、すべてのケースをルールで網羅しきるのは難しく、 新しい取引形態が出てくると基準が後追いになる、という課題も抱えています。

具体的な差異 ── のれんの償却が代表例

抽象的な「原則主義 vs 規則主義」だけでは差がイメージしにくいので、代表的な差異を 1 つだけ取り上げておきます。 もっとも有名なのがのれんの処理。 M&A で他社を買収すると、買収価格と相手会社の純資産額の差が「のれん」として B/S の固定資産に計上されます。

  • IFRS: のれんは非償却。毎期の規則的償却はせず、毎期減損テストを行って、 価値が下落した時点で一括で減損損失を計上する。
  • 日本基準: のれんは20 年以内の効果の及ぶ期間で規則的に償却する。 毎期 P/L に「のれん償却費」が乗るので、その分だけ利益は押し下げられる。

この違いは小さくありません。 多額ののれんを抱える企業の場合、IFRS のほうが毎期の P/L 上の利益は相対的に大きく見えやすい。 ただし減損リスクは温存されているので、価値下落時には一発で巨額の損失が出ます。 日本基準は毎期コツコツ償却していく分、減損のインパクトは相対的に小さくなる ── そんなトレードオフの関係です。

他にも、開発費の資産計上の範囲、研究開発費の費用処理タイミング、時価評価が及ぶ資産・負債の範囲、 リース取引のオンバランス化など、基準が変わると数字が変わる論点はいくつもあります。 ここで覚えておきたいのは、「同じ会社でも、適用される会計基準が変われば、決算書の数字も変わる」という事実です。 会計基準は単なる形式ではなく、数字の意味そのものを決めているのです。 だから決算書を読むときには、表紙や注記で採用基準を必ず確認し、 同業他社と比較するときには「同じ基準で揃っているか」を一度立ち止まって考える ── これがとても大事になります。

比較する前に揃える 3 つの軸

ここまでで「連結」「上場非上場」「会計基準」の 3 つの前提を見てきました。 この章の最後に、これらをどう実務に落とし込むかを整理しておきます。 決算書を比較するときに必ず揃えたい軸は、次の 3 つです。

軸 1: 単体 vs 連結を揃える

A 社の連結決算書と B 社の単体決算書をならべて売上高や利益率を比べても、ほとんど意味はありません。 A 社は子会社の数字も入った「グループ全体」、B 社は親会社単独の「ひとかけら」だからです。 上場企業を分析するときは連結ベースを基本に揃えるのが大原則。 仮にどうしても単体決算書を比較対象にせざるをえない場面では、 「これは単体だから事業の中身がほぼ見えていない」という前提を頭の片隅に置いておく必要があります。

軸 2: 会計基準を揃える

同じ業界でも、A 社は J-GAAP・B 社は IFRS、ということは普通に起こります。 とくに営業利益率の比較をするときは要注意。 IFRS と日本基準ではのれん償却費その他の包括利益の扱いが違うので、 そのまま並べて優劣を語るのは早とちりのもとです。 実務的には、IFRS 会社の数値を日本基準ベースに調整し直す、あるいは「のれん償却前利益(EBITDA に近い概念)」で 横並びに揃え直す、といった工夫が行われます。 最初に有報の表紙で「採用基準」を確認するクセをつけましょう。

軸 3: 期間と通貨を揃える

決算期もそろえる必要があります。 日本企業は 3 月決算が多いものの、12 月決算・6 月決算・9 月決算の会社もあります。 同じ「2024 年度」と呼んでも、対象期間が違えば景気局面が違う。 とくに景気の変動が大きい年や、業界全体が大きく動いた年は、決算期が半年ずれているだけでまったく違う数字が出てきます。 四半期ベースで比較するなら、期ズレを補正してから並べるのが基本です。

通貨にも気を配る必要があります。 日本の親会社が海外子会社を連結するとき、海外子会社の現地通貨建ての決算書を円換算します。 この換算レート(期末レート・平均レート)が大きく動いた年は、 子会社の現地ビジネスは何も変わっていなくても、円ベースの売上・利益が大きく動いて見える、ということが起こります。 為替の影響を業績の変動と切り分けて読むことが必要になる、というわけです。

この章のまとめ

決算書は「同じ B/S・P/L・C/S」と呼ばれていても、 対象範囲(単体か連結か)・適用される会計基準・開示の厚みが違えば、数字の意味も変わります。 上場企業を分析するときは連結 + セグメント情報で全体と中身の両方を押さえ、 非上場企業の決算書は監査がない前提で慎重に読む。 会計基準が違う会社を比較するときは、その差を意識して数字を読み解く ── これが本書全体の出発点になる姿勢です。

ここまでで「決算書とは何か」(CH1)と「読み始める前の準備」(CH2)が片づきました。 次章からはいよいよ本丸へ。 CH3 では貸借対照表(B/S)を取り上げ、会社の体力を読み解く方法を整理します。

この章のポイント

  1. 1上場企業の決算書は単体ではなく連結で見るのが基本
  2. 2「連結 = 親会社 + 支配下の子会社 + 影響下の関連会社(持分法)」
  3. 3上場と非上場で適用される会計基準・開示義務・監査の厚みが違う
  4. 4IFRS は原則主義、日本基準・米国基準と並立する国際的な共通言語
  5. 5比較するときは「単体 vs 連結」「日本基準 vs IFRS」を揃えてから読む