業務上の規制 — 事務所備付け・案内所届出・広告・勧誘・クーリングオフ
この章の主張
- 業務上の規制は、事務所・案内所・広告・勧誘・契約・守秘の6場面で別々の条文が並ぶ。
- 過去問は「どの条文の義務か」を取り違えさせる引っかけ中心。条文番号と主体・時期で押さえる。
- 本章の判定軸に従えば、85問の出題はほぼ機械的に正誤を切り分けられる。
1. 事務所の備付け5点セット — 標識・帳簿・名簿・専任宅建士・報酬額表
事務所には5点セットの備付けが義務付けられます。標識(業法第50条第1項)、帳簿(業法第49条)、従業者名簿(業法第48条第3項)、専任の宅地建物取引士(業法第31条の3)、報酬額表(業法第46条第4項)の5つです。
業法第50条第1項: 「宅地建物取引業者は、その事務所等及び事務所等以外の国土交通省令で定めるその業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令で定める標識を掲げなければならない」(e-Gov 業法第50条)
5つのうち1つでも欠ければ業法違反になり、指示処分または業務停止処分の事由になります(業法第65条)。
1.1 帳簿 — 各取引ごとに記載、閉鎖後5年(自ら売主の新築は10年)保存
帳簿は取引のつど記載し、事業年度末日に閉鎖した後、原則5年間保存します(業法第49条、施行規則第18条第3項)。例外として、業者が自ら売主となる新築住宅の取引については10年間保存が必要です。
「自ら売主」と「新築」の2要件が同時にそろうときだけ10年になる点に注意してください。媒介や代理、中古売買は5年で足ります。なお、令和元年(2017年度)試験 問28選択肢アでは「業務上知り得た秘密を含むため遅滞なく廃棄した」を違反例として扱っており、閉鎖後5年経過前の廃棄は守秘義務とは無関係に49条違反になります。
1.2 従業者名簿 — 最終記載後10年保存、請求があれば閲覧
従業者名簿は事務所ごとに備え置き、従業者の異動を記載し、最終記載日から10年間保存します(業法第48条第3項、施行規則第17条の2)。
帳簿との最大の違いは閲覧請求への応諾義務です。従業者名簿は取引関係者から請求があればいつでも閲覧に供しなければなりませんが、帳簿には閲覧義務がありません。守秘義務(業法第45条)と整合する設計です。
1.3 従業者証明書 — 取引関係者の請求で提示
業者は従業者に従業者証明書を交付し(業法第48条第1項)、従業者は取引関係者の請求があればこれをその場で提示しなければなりません(業法第48条第2項)。宅地建物取引士証で代用することはできません。両者は別の制度です。
2. 案内所等の届出と標識 — 業務開始10日前までに2方面届出
契約締結または契約申込みの受領を行う案内所等は、業務開始の10日前までに、その案内所等に係る業務開始の届出を行います(業法第50条第2項、施行規則第19条第3項)。
届出先は2方面です。免許権者と、案内所等の所在地を管轄する都道府県知事の双方に届け出ます。大臣免許の業者でも、案内所所在地の知事には別途届出が必要です。届出と同時に、案内所に標識を掲示し(業法第50条第1項)、専任の宅地建物取引士を1人以上設置する義務もあります(業法第31条の3、施行規則第15条の5の2)。
2.1 案内所等の標識 — 売主業者と案内所設置業者それぞれの掲示義務
媒介・代理業者が案内所を設けたときは、その案内所に案内所設置業者の標識を掲示します。さらに、物件所在地には売主業者の標識も必要です。同一案内所に2社の標識が並ぶ構図になります。
届出義務は案内所を設置した業者だけに発生します。標識と届出で義務主体が異なる点が頻出の引っかけです。
2.2 届出を要する案内所と要しない案内所
届出義務の分岐は契約締結等の有無です。契約締結や買受申込みの受領を行う案内所は届出必要、単なる物件案内・宣伝のみのテント張りブースは届出不要で標識掲示のみで足ります。
設置場所が分譲現地か否か、規模が大きいか否かは判定に関係しません。機能だけが基準です。
3. 広告規制 — 誇大広告・開始時期・取引態様の3規律
宅建業の広告には3つの独立した規律がかかります。誇大広告の禁止(業法第32条)、広告開始時期の制限(業法第33条)、取引態様の明示(業法第34条)です。3つは互いに独立しているため、複数違反は重ねて成立します。
3.1 誇大広告等の禁止 — 著しく事実に相違 or 著しく優良・有利と誤認
業法第32条は、広告の対象事項について「著しく事実に相違する表示」または「実際のものより著しく優良・有利と誤認させるような表示」を禁じます。具体的には次の3類型に整理できます。
- 事実相違型: 物件の所在地・規模・形質を実物と異なる内容で示す
- 優良誤認型: 「最高ランクの環境」など実態以上に優れていると誤認させる
- 有利誤認型: 価格・支払条件・利回り等を実態以上に有利と誤認させる
実在しない物件の広告(おとり広告)も32条違反です。違反した業者は6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(業法第81条第1号)に処せられます。
3.2 広告開始時期 — 開発許可・建築確認の処分前は広告不可
未完成物件の広告は、開発許可(都市計画法第29条)または建築確認(建築基準法第6条)等の処分があった後でなければ行えません(業法第33条)。申請中は広告できません。「申請済」「許可申請中」と但し書きをつけても違反です。
契約締結も処分後でなければできず(業法第36条)、広告と契約で別条文ですが、ともに処分後であることが共通の前提です。
3.3 取引態様の明示 — 広告時と注文時の2回
取引態様(自ら売主・代理・媒介)は、広告時に表示し(業法第34条第1項)、注文を受けたときに遅滞なく改めて明示します(業法第34条第2項)。同一相手であっても、広告で明示済みだから注文時は省略してよい、とはなりません。重複でも省略不可です。
4. 勧誘規制と禁止行為 — 47条・47条の2の体系
業法第47条と第47条の2は、勧誘・契約の場面の禁止行為を類型ごとに列挙します。47条は契約締結等に関する禁止行為(重要事項の不告知・虚偽告知、手付貸与による誘引、不当に高額の報酬要求)、47条の2は勧誘行為自体の禁止行為(断定的判断の提供、威迫、迷惑勧誘)を扱います。
47条第1号違反(重要事項不告知・虚偽告知)には2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(業法第79条の2)が科され、業務上の規制の中では最重い罰則です。
4.1 断定的判断の禁止 — 将来の利益・環境変動の確実視発言
業法第47条の2第1項は、契約締結の勧誘に際し、利益が生じることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為を禁じます。
「必ず値上がりします」「3年以内に再開発が確定です」「利回り10%は確実です」のように、将来不確実な事項を確実視させる発言が該当します。一方、「過去5年は上昇傾向にあります」「再開発計画は公表されていますが決定は未定です」のように、根拠と不確実性を併示する説明は問題ありません。
4.2 勧誘目的の明示と再勧誘の禁止
施行規則第16条の11第1号ハは、勧誘に先立って業者の商号・名称、勧誘を行う者の氏名、勧誘目的(契約締結の勧誘である旨)を告げる義務を課します。
相手方が契約を締結しない旨の意思を表示したときは、以後の勧誘を継続できません(施行規則第16条の11第1号ニ)。電話・訪問・対面のいずれの方法でも、また日を改めての再アプローチも違反です。
4.3 迷惑な時間帯・長時間勧誘の禁止
施行規則第16条の11第1号ホは、迷惑な時間に電話・訪問する行為、長時間の勧誘や退去妨害を禁じます。同号ヘは、相手方の私生活・業務の平穏を害する勧誘も禁じます。
「相手の意思」が分岐軸です。深夜早朝でも相手の同意があれば違反になりにくく、日中でも相手を長時間拘束すれば違反になります。
5. クーリング・オフ — 事務所等以外で買受申込・契約の8日間解除権
業者が自ら売主となる宅地建物売買で、事務所等以外の場所で買受申込みまたは契約を行った非業者の買主は、業者から書面で告知を受けた日から8日以内であれば、書面で無条件に申込み撤回または契約解除ができます(業法第37条の2第1項)。
3つの要件を確認してください。
- 売主が業者で、買主が非業者であること
- 買受申込みまたは契約締結の場所が事務所等以外であること
- 業者からの書面告知から8日が経過していないこと
申込みと契約締結の場所が異なる場合、申込みの場所が事務所等か否かで判定します。これは過去問頻出の引っかけです。
5.1 事務所等の範囲 — 解除できない場所
事務所等にあたるのは、業者の事務所、継続的な業務施設、専任宅建士を置いて届出済の案内所、買主が自ら申し出た自宅・勤務先(施行規則第16条の5)です。これらの場所での申込みはクーリング・オフできません。
逆に、テント張りの仮設案内所、喫茶店、買主の指定でない第三者宅などは事務所等に該当せず、クーリング・オフが可能です。
判定の分岐は継続性と専任宅建士の有無です。場所そのものが事務所か否かで決まるのではなく、業務の継続性と人的体制で決まります。
5.2 効果 — 損害賠償・違約金請求不可、業者が手付金等を速やかに返還
買主が書面でクーリング・オフを行使すると、契約は遡及的に解消します。業者は受領済の手付金等を速やかに返還し(業法第37条の2第3項)、損害賠償も違約金も買主に請求できません(同条第1項後段)。
買主に不利な特約は無効です(業法第37条の2第4項)。「クーリング・オフは行使しない」と契約書に書いてもその条項は効力を生じません。
なお、買主が物件の引渡しを受け、かつ代金全額を支払ったときも解除権は消滅します(業法第37条の2第1項第2号)。引渡しだけ、または代金支払だけでは消滅せず、両方そろうことが要件です。
6. 守秘義務と業務処理の原則 — 信義誠実・守秘・知識能力維持
業務処理の基本3原則は信義誠実(業法第31条第1項)、秘密保持(業法第45条・第75条の3)、知識能力の維持(業法第31条の2)です。
信義誠実は業務全般を律する総則で、指示処分(業法第65条)の根拠にもなります。秘密保持には罰則があり、違反すると50万円以下の罰金(業法第83条第1項第6号)です。知識能力維持は努力義務で罰則はありませんが、3原則の中で基盤的位置にあります。
6.1 秘密保持義務の主体 — 業者・宅建士・従業者・退職後も継続
秘密保持義務は3つの主体それぞれに課されます。
- 業者(法人): 業法第45条本文。役員・全従業者の秘密保持を統率する立場
- 宅地建物取引士: 業法第75条の3。資格者として独立した義務
- 一般従業者: 業法第45条の「従業者」に含まれる
最大のポイントは退職後・廃業後も継続することです(業法第45条但書、第75条の3)。「退職したから話してよい」は誤りです。令和5年度試験 問28選択肢では、退職した従業者が秘密を漏らした事案を業法違反として扱っています。
7. 供託所等に関する説明 — 契約成立前に取引相手へ
業者は契約成立前に、供託所等に関する事項を取引相手に説明する義務があります(業法第35条の2)。説明内容は業者の類型で異なります。
営業保証金を供託した業者は、供託した供託所とその所在地を説明します(業法第35条の2第1号)。保証協会の社員である業者は、社員である協会の名称・住所、および弁済業務保証金の供託所所在地を説明します(業法第35条の2第2号)。両者は択一的で、同じ業者が両方説明することはありません。
7.1 説明の相手方と時期 — 契約成立前、宅建士の説明は不要
業法第35条の2の説明は、宅建士による説明である必要はありません。重要事項説明(業法第35条)が宅建士必須なのと対照的です。
書面交付の明文義務もなく、口頭説明で足ります。実務では重要事項説明書とあわせて記載することが多いですが、35条と35条の2は別の制度です。説明の相手方は契約の相手方(買主・借主等)で、業者間取引でも説明義務はあります(業法第78条第2項で35条の説明義務は適用除外になるが、35条の2は適用除外規定なし)。
このカテゴリから出る過去問(公式由来確認済)
本カテゴリは過去問27年で85問が出題された大論点です。直近の代表的な出題を抜粋して掲載します。
- 令和5年度試験 問28(違反するものはいくつあるか)— 論点: 業務上の規制全般。出典: → RETIO 試験情報
- 令和5年度試験 問36(違反するものはいくつあるか)— 論点: 広告・勧誘の規制
- 令和4年度試験 問30(正しいものはいくつあるか)— 論点: 業務上の規制と犯罪収益移転防止法
- 令和4年度試験 問37(業務の規制違反)— 論点: 広告規制
- 令和3年10月試験 問30(正しいものはいくつあるか)— 論点: 広告の規制
- 令和3年10月試験 問43(違反するものはいくつあるか)— 論点: 業務全般
- 令和2年10月試験 問27(正しいものはいくつあるか)— 論点: 広告の規制
- 令和元年度試験 問27(正しいものはいくつあるか)— 論点: 業務上の規制
- 令和元年度試験 問30(違反するものはいくつあるか)— 論点: 広告の規制
- 平成30年度試験 問28(正しいものはいくつあるか)— 論点: 業務上の規制
- 平成30年度試験 問40(違反するものはいくつあるか)— 論点: 業務上の規制
- 平成29年度試験 問28(違反しないものはいくつあるか)— 論点: 帳簿・名簿・守秘義務
- 平成29年度試験 問42(正しいものはいくつあるか)— 論点: 広告の規制
本カテゴリの過去問27年分の集約・解説は Phase 3 で
/takken/quiz/{year}/{q-number}/に展開予定です。
参照条文
- 宅建業法 第31条(業務処理の原則): e-Gov 業法第31条
- 宅建業法 第31条の2(知識・能力の維持向上): e-Gov 業法第31条の2
- 宅建業法 第31条の3(専任の宅建士の設置): e-Gov 業法第31条の3
- 宅建業法 第32条(誇大広告等の禁止): e-Gov 業法第32条
- 宅建業法 第33条(広告開始時期の制限): e-Gov 業法第33条
- 宅建業法 第34条(取引態様の明示): e-Gov 業法第34条
- 宅建業法 第35条の2(供託所等に関する説明): e-Gov 業法第35条の2
- 宅建業法 第37条の2(クーリング・オフ): e-Gov 業法第37条の2
- 宅建業法 第45条(秘密を守る義務): e-Gov 業法第45条
- 宅建業法 第46条(報酬額の制限): e-Gov 業法第46条
- 宅建業法 第47条(業務に関する禁止事項): e-Gov 業法第47条
- 宅建業法 第47条の2(不当な勧誘等の禁止): e-Gov 業法第47条の2
- 宅建業法 第48条(証明書の携帯・従業者名簿): e-Gov 業法第48条
- 宅建業法 第49条(帳簿の備付け): e-Gov 業法第49条
- 宅建業法 第50条(標識の掲示・案内所等の届出): e-Gov 業法第50条
- 宅建業法 第75条の3(宅建士の守秘義務): e-Gov 業法第75条の3
- 宅建業法施行令 第1条の2(事務所定義): e-Gov 施行令第1条の2
- 宅建業法施行規則 第15条の5の2、第16条の5、第16条の11、第17条の2、第18条、第19条: e-Gov 法令検索(「宅地建物取引業法施行規則」で検索)
- 注: e-Gov の SPA URL が変更され lawId 直リンクが失効しているため、検索ハブ経由でリンクします。Phase 2 着手前に lawId を再確定する予定です。
- 国土交通省「宅建業法の解釈・運用の考え方」: → 国交省 解釈運用
関連カテゴリ
- 5_1 宅地建物取引業・免許 — 業務上の規制は免許後の業務ルール
- 5_2 宅地建物取引士 — 専任宅建士の設置義務、秘密保持義務の主体
- 5_7 35条書面 — 重要事項説明と本章の供託所等説明の使い分け
- 5_8 37条書面 — 契約書面の交付規律
- 5_9 8種制限 — クーリング・オフを含む8種制限の体系
次に読む
5_9 8種制限 — クーリング・オフは8種制限の一つ。残り7つ(手付・契約解除制限、損害賠償予定額の制限、手付金等の保全、自己所有でない物件の売買制限、割賦販売の解除制限、契約不適合責任の特約制限、手付金等の額の制限)を体系的に学びます。
本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は
/takken/changelog/に掲載します。