営業保証金 — 供託・還付・追加供託・取戻しを期限とともに押さえる
この章の主張
- 金額・供託先・時期の3要素を揃えないと、免許があっても営業は始められない。
- 還付・追加供託・取戻しの「期限」と「義務者」が問われる。
- 保管替えは現金供託の場合だけ、取戻しは原則6ヶ月公告がかかる。
1. 供託金額と供託先 — 本店1,000万円・支店500万円を主たる事務所最寄りの供託所へ
業法第25条第1項は、宅建業者に営業保証金の供託義務を課しています。供託額は政令で本店1,000万円・従たる事務所ごとに500万円と定められ(業法施行令第2条の4)、これを主たる事務所の最寄りの供託所へ一括で納めます。
供託金は、取引で生じた債権を持つ相手方を守るための「もしも」の備えです。法律は、あなたが宅建業者として営業を始める前に、最低限の損害填補原資を積ませている、と理解してください。
業法第25条第1項: 「宅地建物取引業者は、営業保証金を供託しなければならない。」(e-Gov 業法第25条)
1.1 有価証券での供託 — 国債は額面どおり、地方債・政府保証債は90%
営業保証金は現金だけでなく一定の有価証券でも供託できます(業法第25条第3項)。種類によって評価率が異なる点が頻出です。
| 有価証券の種類 | 評価率 | 1,000万円分に必要な額面 |
|---|---|---|
| 国債証券 | 100%(額面どおり) | 1,000万円 |
| 地方債証券・政府保証債証券 | 90% | 約1,112万円 |
| その他の有価証券(一定の社債等) | 80% | 1,250万円 |
評価率の根拠は業法施行規則第15条です。同じ「1,000万円分」を有価証券で供託する場合でも、種類によって必要な額面が変わります。
2. 事業開始の要件 — 供託+届出が揃って初めて営業可
業法第25条第4項は、業者に対し供託後、供託書の写しを添付して免許権者に供託の旨を届け出る義務を課します。そして業法第25条第5項は「届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない」と明文で禁じます。
つまり順序は「①免許 → ②供託 → ③届出 → ④事業開始」の4段階。供託しただけで届出を怠れば、まだ営業はできません。
業法第25条第5項: 「宅地建物取引業者は、前項の規定による届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない。」(e-Gov 業法第25条)
放置時の分岐も覚えてください。業者が免許後3ヶ月以内に供託の届出をしないとき、免許権者は届出をすべき旨を催告する義務を負います(業法第25条第6項)。催告到達から1ヶ月以内になお届出がない場合、免許権者はその免許を取り消すことができます(業法第25条第7項)。「取り消さなければならない」ではなく「取り消すことができる」、つまり任意的取消事由である点が頻出の引っかけです。
2.1 新設支店の場合 — 設置前に支店分500万円を追加供託
事業開始後に支店を新設するときも考え方は同じです。業法第26条第1項は、業者が新たに事務所を設置したときは、その設置分(500万円)の追加供託を求めます。第26条第2項により第25条第4項・第5項が準用され、追加供託の届出を済ませた後でなければ、その支店で取引はできません。
供託先は新設支店の最寄り供託所ではなく、主たる事務所の最寄り供託所のまま。令和元年問39選択肢アはここを「従たる事務所の最寄りの供託所」とした選択肢を誤りとしています。
3. 還付と追加供託 — 取引相手からの還付請求と2週間以内の補充
業法第27条第1項は、宅建業に関する取引から生じた債権を有する者に対し、営業保証金から弁済を受ける権利(還付請求権)を認めます。還付請求は供託所に対して行います。
還付により供託金が政令で定める額を下回ると、業者は補充義務を負います。業法第28条第1項により、免許権者から不足通知を受けた日から2週間以内に不足額を供託しなければなりません。さらに業法第28条第2項により、供託した日から2週間以内に免許権者に届け出ます。
つまり「通知→2週間→供託→2週間→届出」のダブルゲート構造です。令和5年度試験 問30選択肢ウは、この届出期限を「30日以内」とした記述を誤りとしています。
3.1 還付請求できる債権 — 宅建業に関する取引の債権に限る
還付の対象は宅建業に関する取引から生じた債権に限られます(業法第27条第1項)。契約解除に伴う損害賠償、契約不適合責任に基づく請求、買主が支払った手付金や代金は、いずれも還付対象です。
一方、次のものは還付対象外です。
- 他の宅建業者との取引から生じた債権(保証協会の弁済業務保証金も同じ構造)
- 広告代金・印刷費・事務所家賃・従業員給与等の業務上の経費
- 宅建業以外の取引(例: 業者が経営する飲食店の売掛金)
業者間取引が除外されるのは、業者は自衛できる前提で制度が設計されているためです。
4. 保管替えと取戻し — 移転は現金のみ・取戻しは公告6ヶ月
主たる事務所を移転して供託所の管轄が変わる場合の処理は、業法第29条第1項で2方式に分かれます。
金銭のみで供託している場合: 旧供託所に対し、遅滞なく保管替えを請求します。供託金は旧→新の供託所へ移されます。追加の現金を用意する必要がなく、二重供託も生じません。
有価証券を含む場合(一部でも有価証券があれば該当): 保管替えはできず、新供託所に改めて供託したうえで旧供託所から取り戻します(業法第29条第1項ただし書)。この場合、移転手続が完了するまで一時的に二重に積まれた状態になります。
業法第29条第1項: 「宅地建物取引業者は、その主たる事務所を移転したためその最寄りの供託所が変更した場合において、金銭のみをもつて営業保証金を供託しているときは、…遅滞なく、…保管替えを請求しなければならない。」(e-Gov 業法第29条)
4.1 取戻しできる場合 — 廃業・取消し・保証協会加入・支店廃止
業法第30条第1項は、営業保証金の取戻し権を業者に認めます。ただし第30条第2項により、原則として6ヶ月以上の期間を定めて還付請求権者に申出を促す公告をしてからでなければ取り戻せません。令和5年度試験 問30選択肢エの「3ヶ月を下らない一定期間」は誤りで、正しくは「6ヶ月を下らない一定期間」です。
公告の有無は、取戻し事由ごとに次のように整理できます。
| 取戻し事由 | 公告 |
|---|---|
| 免許の有効期間満了 | 必要(6ヶ月以上) |
| 免許取消処分・廃業届出 | 必要(6ヶ月以上) |
| 一部支店廃止による超過分の取戻し | 必要(6ヶ月以上) |
| 保証協会の社員になった | 不要 |
| 主たる事務所移転で二重供託が生じた場合 | 不要 |
| 取戻し事由発生から10年経過 | 不要 |
公告不要のケースは、別の損害填補の仕組み(保証協会の弁済業務保証金)が代替する場合、または時効類似の長期経過がある場合に限られます。
このカテゴリから出る過去問(公式由来確認済の問題)
- 令和元年度試験 問39(正しいものはいくつあるか)— 論点: 営業保証金と弁済業務保証金分担金の供託先・追加供託期限・社員資格喪失時の供託期限。出典: 一般財団法人 不動産適正取引推進機構(→ RETIO 試験情報)
- 令和4年度試験 問41(誤っているものはいくつあるか)— 論点: 取戻し公告期間、追加供託の2週間、保証協会の苦情解決、弁済業務保証金分担金の弁済範囲。出典: 同上
- 令和5年度試験 問30(正しいものはいくつあるか)— 論点: 催告と免許取消、届出後の事業開始、不足通知後の届出期限、取戻し公告期間。出典: 同上
本カテゴリの過去問27年分の集約・解説は Phase 3 で
/takken/quiz/{year}/{q-number}/に展開予定です。
参照条文
- 宅建業法 第25条(営業保証金の供託等): e-Gov 業法第25条
- 宅建業法 第26条(事務所新設時の追加供託): e-Gov 業法第26条
- 宅建業法 第27条(営業保証金の還付): e-Gov 業法第27条
- 宅建業法 第28条(不足額の供託・届出): e-Gov 業法第28条
- 宅建業法 第29条(営業保証金の保管替え等): e-Gov 業法第29条
- 宅建業法 第30条(営業保証金の取戻し): e-Gov 業法第30条
- 宅建業法施行令 第2条の4(供託金額): e-Gov 宅建業法施行令
- 宅建業法施行規則 第15条(有価証券の評価率): e-Gov 法令検索(「宅地建物取引業法施行規則」で検索)
- 注: e-Gov の SPA URL が変更され lawId 直リンクが失効しているため、検索ハブ経由でリンクします。Phase 2 着手前に lawId を再確定する予定です。
関連カテゴリ
- 5_1 宅地建物取引業・免許 — 免許取得後にこの章の供託義務が発生する
- 5_4 保証協会・弁済業務保証金 — 営業保証金の代替制度(分担金で済む)
- 5_11 監督処分 — 催告後の取消は任意的取消事由
次に読む
5_4 保証協会・弁済業務保証金 — 営業保証金を全額供託する代わりに、保証協会に加入して分担金を納める方式を学びます。
本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は
/takken/changelog/に掲載します。